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症例供覧

オトガイ孔はどこにある?(オトガイ孔の開口)

Q: 下顎無歯顎症例です。オトガイ孔はどこにあるでしょうか?

全体画像
 図1:下顎管を遠心から追うとオトガイ孔があるはず。(福岡県ご開業 古川耕治先生よりご提供)
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 図2:黄色矢印あたりがオトガイ孔か?

A:下顎骨では下顎管の読影がまず重要です。下顎管を読影する際に、前方のオトガイ孔から下顎管をたどる先生もいらっしゃることでしょう。それも1つの方法ですが、後方の下顎孔付近では歯がないために海綿骨(骨梁)が少なく下顎管壁の白線が比較的わかりやすいと思います。後方で読影された下顎管をたどっていくと、前方にオトガイ孔があるはずです。しかし、本症例では途中から下顎管が見づらくなっているので、オトガイ孔は(なかばあてずっぽう的に)図2の矢印部分ではないかと判断しました。

 

押さえどころ

1.下顎管は下顎骨の遠心側から探すと比較的わかりやすい。
2.オトガイ孔は下顎骨体の高さ1/2付近にあるとは限らない。
3.「歯槽頂切開はオトガイ孔より遠い」と思い込むと、神経麻痺のリスクがある。
4.下顎管、オトガイ孔の三次元的位置を把握するためにCT撮影をする。

ボトム

 

解説

■パノラマの所見:

 下顎管の読影では、わかればどちらからでもかまいませんが歯を支える海綿骨が少なく見やすいため、十河は後方からの読影を行っています。 ちなみにパノラマ上では下歯槽神経を囲む下顎管の皮質骨が白線として現れますが、上壁は歯に向かって神経が分岐しているため下顎管の下壁の白線の方が比較的見えやすいそうです(十河が読影でわからない時にいつも助けていただく同級生の村上秀明先生(大阪大学歯学研究科 歯科放射線学教室 准教授)のお話からの引用です。まさにロジカルです。)。

図3:オトガイ孔は5番付近直下、高さ的には1/2を目安に

 しかし本症例において下顎管を前方にたどっていくと、どちらも白線も途中でわからなくなりオトガイ孔が読影できません。

 通常、有歯顎のオトガイ孔の位置(図3)は近遠心的には第二小臼歯付近にあり、上下的には下顎体の中央もしくは若干高い位置にあるため(上條雍彦: 口腔解剖学1 骨学, p.162, 昭和40年、アナ-ム社)、図2のパノラマでは「黄色矢印がオトガイ孔ではないか」となかばあてずっぽう的に判断しました。

 

 

 

 

 

■CTの所見:

 しかし、下記のパノラマ的なカーブドMPR(参照:MPRとは)をご覧ください。パノラマ画像では見にくかった下顎管とオトガイ孔が一目瞭然でわかります。 CT画像上の下顎管の走行に沿った目線をパノラマ上で同じようにたどると、薄っすらとした線の軌跡として下顎管やオトガイ孔が見えてくるのではないでしょうか。 本症例のオトガイ孔は、上方へと開口していることがわかりました(図4、赤矢印)。これはまさに国家試験の補綴における臨床問題で「強く義歯で噛むとシビレ感を生じる。 何故でしょう?」と出題されるような、著しい顎骨吸収によってオトガイ孔の上下的な位置が相対的に歯槽頂部に移動してしまった症例といえるでしょう。

 図4:CT画像のパノラマ的なカーブドMPR。赤矢印にオトガイ孔が見える。
 図5:黄色矢印がオトガイ孔?

 もし、今回パノラマだけの診断で「オトガイ孔の位置は少しわかりにくいが、歯槽頂切開であれば通常のオトガイ孔からの距離があるので安全だろう」と思い込んで歯槽頂切開をしてしまうと、恐らくオトガイ孔から出てきた神経を傷つけ神経麻痺を起こしていることでしょう。 

 このように、十河は例え下顎管の走行やオトガイ孔の位置がパノラマでおよその見当がついていても、あくまでもパノラマは「定性的な診断装置」であって「定量的な診断装置」ではないため、正確な下顎管やオトガイ孔の三次元的な位置と距離を完全に把握しておくために100%CT撮影を事前に行っておくべきだと思っています。

 
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