ホーム » 症例供覧 » CT画像の読影 「インプラント編」 » 【臨コメ】臨床的な骨質が悪い場合の対応(私見)

症例供覧

【臨コメ】臨床的な骨質が悪い場合の対応(私見)

 先生方から「患者さんの骨質が悪いようなのですが、インプラントはあきらめた方がいいでしょうか?」といった質問をうけることがよくあります。その時十河は「いえいえ、患者さんが困っていらっしゃり、インプラントを希望されていらっしゃるのであれば、事前に対策を講じていれば、手術を行っていいのではないでしょうか!」と言っています。
 十河の全くの私見ですが、4つのカテゴリーの12の対策をご説明します。

 

■カテゴリ-1:インプラントの選択  
1.粗造な表面性状を選ぶ:
 最近では機械仕上げ(実際は研磨をしていないので「機械研磨」という言い方は適正ではない)の表面のインプラント体は見られなくなりましたが、オッセオインテグレーションがより高く得られると考えられる粗造な表面性状のインプラント体を選んでください。

図1 粗造な表面性状(右)を選ぶ
2.テーパー型を選ぶ:
 メーカーにもよりますが、パラレルな円柱状のインプラント体よりも骨への食い込みが良いと考えられるテーパー型(歯根型)のインプラント体を選んでください。
 その理由を例えるならば、日曜大工でスカスカの石膏ボードの壁に「木ねじ」というテーパー形状のねじをねじ込むと固定が良いのと同じように考えています。

図2 テーパー型形状(右)を選ぶ
3.セルフタップを選ぶ:
 メーカーにもよりますが、骨への切り掻き能力が高いセルフタップのインプラント体を選んでください。
 もう今では硬い骨質しか行わないと思いますが、骨質が悪い骨に対しては決して事前のタップを切ってはいけません。

図3 切り掻き能力の高い尖端形状(右)を選ぶ
4.広がったプラットホーム形状を選ぶ:
 メーカーにもよりますが、カウンターシンクの形成によって皮質骨への支持の増加が考えられます。そのため、プラットホーム部分でラッパ状に広がった形状インプラントを選ぶのも一案です。
  しかし、そういったインプラントは骨幅がないと適応できないことや、骨頂の皿上吸収を促す可能性があるため、昔と違ってカウンターシンクを付与しないことが多く、現実的ではないかもしれません。 

図4 プラットホームが広がった性状(右)を選ぶ
5.サイズの大きなものを選ぶ:
 メーカーにもよりますが、表面積の広いインプラント体として、「長いインプラント」や「太いインプラント」を選ぶのも一案です。

図5 表面積が広いインプラントも一案です
■カテゴリ-2:治療計画  
6.本数を増やす:
  咬合力を分散させるために埋入本数を増やします。例えば、大臼歯2本のところに小臼歯を3本埋入したり(図6左)、また歯冠補綴はしないものの7番の遠心に支持だけを目的としたインプラント体を1本傾斜埋入したりします(図5右)。但し、後者の7番遠心部への埋入では清掃性に注意をし、またレトロモラーパッドの腺組織の除去などは必要となります。
 
  図6 本数を増やす(左:大臼歯部に小臼歯3本、
  右:7番遠心に1本埋入)
7.バイコルチカルな支持:
 インプラントの歯頸部と尖端部の両方に(場合によっては傾斜埋入をするなどして)皮質骨の支持を求める(白丸)、いわゆるバイコルチカルな支持を求めるのも一案です。根尖部が接するだけでも支持は増えます。

図7 バイコルチカルな骨支持(丸印)
8.硬い骨を捜す:
 CT値を利用して臨床的な骨質の色分けを行い、少しでも硬い骨質の場所を探す。

図8 CT値から硬い骨を捜す。
■カテゴリ-3:手術  
9.アダプテーションテクニック:
 フランスのフランク・レノアール先生(図9a左)が提唱するアダプレーションテクニックを行う。アダプテーションテクニックは、形成窩の入口部分は最終形成の太さ(例:φ3mm)とするが、その下は最終形成よりも少し細い形成(例:φ2.75mm)で、さらにその下の尖端部分では最初の形成窩のまま(例:φ2mm)としたステップ状の形成を行い(図9a右)、そこに埋入する方法である。またその変法として、φ2mmの形成窩からφ3mmの形成窩にサイズアップをするためのパイロットドリルで形成を終え(図9b)、同部にセルフタップのインプラントを埋入する手法です。

図9a レノアール先生のアダプテーションテクニック

図9b パイロットドリルまで形成する
10.ガイドサージェリー:
 手振れの少ない形成となるようにガイドサージェリーを利用する。またガイドを使った形成時の回転では、高回転と低回転でどちらの方が手ぶれは少ないかについては両論ありますが、十河はガイドサージェリーを行う場合には丁寧な形成を意識して低回転(300~400rpm)をお勧めしています。
  図10 ガイドサージェリーで手振れを少なく
  タイトに形成する
11.治癒期間の延長:
 通法の1.5~2倍の治癒期間を延長する。

図11 十分な骨結合時間を待つ
■カテゴリー4: 補綴  
12:プラットホームスイッチング:
 頚部の骨吸収をできる限り少なくするために、(骨吸収の真偽はさておき)プラットホームスイッチングを行う(赤丸)。

注)プラットホームスイッチング: インプラントの直径よりも径の小さなアバットメントの直径を選択し、意図的にギャップを作ることでインプラントのネック周囲の骨吸収が抑制する方法。本用語はImplant Innovation Inc.(現Biomet 3i)の商標(Platform Switching)です。
 図12 プラットホームスイッチングで皮質骨の
 皿状吸収を抑制する
 
ページの先頭へ