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症例供覧

骨はありそうなのに落ちたインプラント


大阪府ご開業
奥野幾久先生のご厚意による

図1: 左側下顎遊離端欠損の症例。上記は6番を示すCT断面であるが、下顎管から十分な骨の高さと骨幅がある。また、パノラミックなMPR像を見ても下顎管と骨表面の間にはモロモロとした海綿骨が存在しているように見えます。(大阪府ご開業 奥野幾久先生よりご提供)

Q:左側下顎遊離端欠損の患者さん。医科用CTを用いてインプラントの診断を行いました。CTデータを見ると下顎管からの距離は十分な顎骨の高さがあり、また顎骨幅も十分にあるように見えました(図1)。さらに同部の海綿質部分ではモロモロとした海綿骨が見えているので、「インプラントはしっかりと埋入できる!」と思っていました。

 しかし5番を埋入し、6番を埋入し、最後に7番を埋入すると、「ドーン」と音こそなりませんでしたが埋入した7番のインプラント体が顎骨の中に落ち込んでしまいました(図2)。先生方は、いったい何が起こったと想像されるでしょうか?

 


図2: 7番のインプラントが埋入後、顎骨内に落ち込んでしまった。
 

解説

A:「CT値(参照:CT値とは)」をご存じでしょうか?「医科用CTでは一般的にCT値が出力され、CT値によって臨床的骨質診断ができる。」といわれています。歯科用インプラントにおいては、「Mischの分類」(参照: CT値の利用法:インプラントにおける臨床的骨質診断)が臨床的骨質診断の指標として有名です。このことを元に本症例を解説します。

 図3は、図1のCT画像の各ピクセルが持つCT値をMischの分類に基づいて色付けしたものです。選択した色は十河が硬さをイメージして勝手に考えた色で、赤から青で表現しています。CT値が1250HU以上の硬い骨を赤色で表現し、続いてCT値に応じてD2、D3、D4までを黄色、黄緑色、水色に、150HUより小さいD5は青色で表現して「骨でない」ものとしています。

 まさに左下7番の部分(黄色丸部分)は、D5の骨質で「骨ではない。」ことがわかります。図1のモロモロとした灰色で表現され、海綿骨と思ったのは骨組織ではないことがわかりました。CT値は空気を-1000HUとして真っ黒に示されますので、空気よりも密度が大きく、また骨ではない組織として「脂肪骨髄」が表現されている可能性が考えられます。

 手術のドリリング時には、「骨ではない」と注意するとともに、手術前に骨質が悪い場合の対策を考えておくべきでしょう(骨質の悪い場合の対策は次回に)。

 
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